【第5回】進化するFSビジネス<br>証券化の創世記よりスキームに向き合ってきた。<br>税務会計審理室の起ち上げと証券化ナレッジの集約に挑む
1992年の創業以来、証券化・ストラクチャードファイナンスといったフィナンシャルソリューションビジネス(以下、FSビジネス)のパイオニアとして、金融業界において存在感を発揮してきた東京共同会計事務所。一部では既に成熟したとも言われる証券化業界だが、東京共同会計事務所は、従来にはない証券化案件の組成やビジネスの開発に取り組んでいる。
本シリーズでは、その東京共同会計事務所のFSビジネスにおける新たな取組みと組織について特集する。
第5回の今回は、東京共同会計事務所にて、審理室にて活躍する島田秀二氏のインタビューをお届けする。
証券化においては、法人税法や消費税法といった税法はもちろん、会社法や金融商品取引法、資産流動化法、信託法、有責法、不動産特定共同事業法など、様々な法令が関係してくる。また、案件ごとにスキームを検討し、組成していくという業務の特性上、似た案件は多数ありつつも、各案件において独自の論点が登場し、そのひとつひとつにおいて法令リスクを検討していかなければならない。
証券化の黎明期より、その最先端で証券化の論点と向き合い続けてきた島田氏に話を聞いた。
東京共同会計事務所が、研修をはじめとするスタッフ教育や、税務を中心とした社内からの相談、問い合わせへの対応を専門に行う「税務会計審理室(以下「審理室」)」を設けたのは、2017年のことだ。島田秀二氏は、税理士の資格を持つ。
「大学を卒業後、小規模な会計事務所に入所し、4年ほど勤めました。中小企業の経営者と直に話ができる仕事は面白かったのですが、クライアントは限られていましたし、ある程度経験すると、他のこともやってみたいと思うようになりました。そこで、税理士試験に合格した後、専門学校主催の合同就職説明会に顔を出し、東京共同会計事務所と出会ったわけです。事業内容を聞いた最初は、正直何をやっているのかがあまりわからなかったのですが(笑)、逆にそこに興味を抱きました。
入所後、最初に任されたのは、当社の担当者が作成したクライアントの決算書や税務申告書などをチェックする、レビュアーという役回りでした。仕事の性格上、回ってくる案件は、非常に多かったことを覚えています。」
しかもそれらは、普通の事業会社の決算書などではなく、東京共同会計事務所が市場を拓きつつあったSPC(特別目的会社)にかかわる財務書類である。今でこそ証券化のスキームも出揃いその多くがパターン化されているが、島田氏が入所した2000年当時は、まだ創成期にあり、次々と新たなスキームが登場する時代であった。
「私自身、証券化の会計、税務に関しては、ゼロからのスタートでした。もちろん税理士としての知識や経験は役に立ちましたが、それだけでは完璧なチェックはできません。前職で対象としていた中小企業向けの税務とはまったく異なる法律や規制について検討する必要があり、商法(現在の会社法)、資産流動化法など、税法以外でも対応しなければならないことばかりでした。
中でも必要不可欠だったのが、契約書の読み込みです。案件ごとに投資家がいて、対象となる資産があり、スキームが検討される証券化ビジネスは、『契約書でつくられている世界』と言ってもいいでしょう。
当時の仕事で記憶に残るのは、とにかく1日中、まだしっかりしたフォーマットさえ定まっていないような状態の契約書をひたすら読んでいた、ということです。私の場合は、そうやって契約書と格闘しながら、だんだん東京共同会計事務所の主力ビジネスである証券化の形をイメージできるようになっていった、という感じですね。」
レビュアーという実務で鍛えられた島田氏は、引き続きその任務をこなしながら、クライアントの相談に乗ったり、決算を組んだり、スキームそのものを作り込んだり、といった現場も経験する。
「当時の私の立場は、クライアントの直接の担当というわけではなく、その上にいる『会計の責任者』というようなスタンスです。そのため、現場から日々、案件に関する相談が持ち込まれ、通常のラインにいる人たちに比べると、ここでも多くの案件に携わることになりました。
例えば、出来上がった契約書を読むだけではなく、その作成の段階から、『会計税務でこういうことを実現したい』という要望を基に、それに見合ったコメントをクライアントに伝えていく。取引がスタートした後も、まだ会計基準も定まりきっていない会計処理に関してどう対応すべきかクライアントの質問に答えたり、見直しをアドバイスしたり、取引のあらゆるフェーズで、会計、税務面をサポートする任務に取り組んだわけです。」
例えば、目まぐるしく変わる税制に即したビジネスを展開するためには、事務所全体で最新情報を共有する必要がある。だが、クライアントの窓口である現場のメンバーたちにそうした機能を持たせるのには、限界もあった。一歩退いた立ち位置で、その部分を専門として担うことを目的に新設されたのが「審理室」である。創成期からの証券化ビジネスをずっと俯瞰してきた島田氏は、その蓄積を買われて、そこを任される。
「審理室で行っているのは、また、税法を始めとした各種法令や証券化スキームに関する社内からの相談対応です。
基本的に『いつでもどうぞ』というスタンスなのですが、寄せられる質問は、多岐にわたるうえ、確定的な答えが出しにくいものも多くあります。証券化はクライアントの利益の直結するビジネスであるため、万が一間違えた場合には、“損害”も大きくなってしまいますから、神経を使います。
同時に、税制改正が主力のSPCビジネスにどのような影響を与えるのかを検討し、正確な“答え”を出すのも、重要な任務です。そもそも証券化というスキームは、“現在の”税制に基づいたバランスの上に成立しています。ですから、関連する税制の変更は些細なものであっても、時に大きなインパクトになり得ます。税制改正は毎年行われますから、もし影響する可能性が生じた場合には、いち早く関連する案件の担当者にその内容を伝え、注意を促さなくてはなりません。
また、所内の会計スタッフを中心とした教育も重要なミッションです。SPCの税務業務やストラクチャリングができるようにするため、それに合うように社内研修のテーマや中身を決めて、計画的に実施しています。
証券化ビジネスに必要な知識は、一般事業会社の経理業務ではあまり使われないものが多く、きちんと理解するためには、社内で1から習得させなくてはなりません。私が入所した頃と違って証券化も成熟期になり、さまざまなマニュアルなども整備された結果、そこに従ってこなしていけば正解にたどり着けてしまう、逆に実務からそれらを学ぶことが難しくなった、という側面は否めません。その意味でも、スタッフがより本質的な知識を身につけるための学習をサポートする審理室の役割は、ますます重要になっていると感じています。」
ある種マニアックとも言えるほどの知的探究心で証券化ビジネスに向き合ってきた姿勢から、まさに適材適所のミッションを任せられたように思える島田氏。そのマニアックな姿勢から社内では「ドクター」という異名で呼ばれていたこともあるという、そんな島田氏も審理室に来る際には、“会計の現場”から離れることに、一抹の寂しさも感じたそうだ。
だが、「日々の実務に左右されることなくなく、会計部門のレベルアップに注力できる現状には、とてもやりがいを感じてもいる」と話す。
「個人的にも、“人に教えて理解してもらう”ということに喜びを感じるタイプなので、自分に合ったポジションだと思いますね。実際、研修を通じて知見を高めてもらえば、ミスを未然に防ぐことにもつながるでしょう。業務上の疑問や悩みに的確に答えられれば、スタッフに自信をもって働いてもらえるはず。事務所にそういう貢献のできる場があるのは、ありがたいことだと感じています。
とはいえ、これまで説明してきたような機能が私1人に集中している、という現状があります。質問への対応にしても、もっと組織的にノウハウを集積してアウトプットできる、ナレッジセンターへと昇華させていくのが、今後の目標です。」
審理室を強化していくにあたり、さらなる人材が必要である。難易度の高い論点と日々向き合う審理室の仕事だが、そこに素養は“新しいことへの好奇心”だと島田氏は語る。
「会計や財務に関する基本的な知識を備えていて、新しいことをやってみたい、という意欲に満ちた人材が欲しいですね。証券化にかかわった経験を持つ人は、業界にもほとんどないと思いますが、それについては勉強して身に付けてもらえば大丈夫だと考えています。
多数の法令が関連する証券化ビジネスにおいて、日々現場から上がってくる“生きた疑問”に答えを出していくという仕事、その経験やそこに対応していくための勉強は、他にも応用可能な強みになると思います。」
なお、本稿の内容は執筆者(監修者の場合は「監修者」と記載)の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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