みなさん、はじめまして。東京共同会計事務所の窪澤と申します。
この度、会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイントと題して、税理士賠償責任(以下「税賠」といいます。)に関するコラムを始めさせて頂くこととなりました。
このコラムでは、複数回に渡って、税務業務に携わる税理士や公認会計士の皆さまが、知っておくべき税賠のポイントをお届けしてまいります。
※本コラムは2019年掲載の記事となります。最新の情報は専門家へお問い合わせの上ご確認いただけますと幸いです。
税賠のご相談にいらした税理士の先生に顧問契約書の開示をお願いすると、そもそも契約書は作成していないとおっしゃる場合があります。もちろん、契約は口頭でも成立するので、クライアントとの間で委任の内容の合意ができていて、その対価報酬きちんと頂ければ、契約書がなくても特段問題は生じないかもしれません。ただし、クライアントとの間でトラブルになった場合には、クライアントが指摘するミスの内容が、そもそも契約書で委任されていた業務なのかどうかが問題になることがあります。
例えば、毎事業年度の仕訳の数がかなり多いクライアントの場合などで、クライアントの経理担当者が消費税の課税区分をミスしたことで消費税の修正申告が必要になったとしたら、それは、クライアントと税理士、どちらの責任なのでしょうか。おそらく、クライアント側は、「経理担当者が間違えたとしても、税理士がすべてチェックしてくれないと困る!」とおっしゃると思いますし、税理士は、「これだけ件数が多いと、すべてはチェックできないので、ある程度はクライアントの経理担当者による仕訳を信用していました。」と言うかもしれません。このような場合でも、契約書がないと、原則としては、専門家である税理士の責任になることが多いと考えられます。また、実際にも、税理士の業務負担が多く、すべて漏れなくチェックする時間的余裕はないかもしれません。いずれにせよ、後からこのようなトラブルになることを避けるためにも、契約書の持つ意味はとても大きいと思われます。
契約書をきちんと作成する大きな理由の一つは、クライアントと税理士との間で、委任する「業務内容」は何かということを明確にするためです。ですので、業務内容として、「法人税申告書作成」「消費税申告書作成」「税務調査対応」等とだけ書かれている場合も、契約書を作成する意義が半減してしまっているといえるでしょう。
受任している「業務内容」は申告書の作成に決まっているじゃないか、と思われるかもしれません。でも、本当にそうでしょうか。申告書の作成1つ取ってみても、出来上がった決算書を基に申告書だけ作成するのか、決算仕訳を入力するところから行うのか、証憑類はすべて税理士が確認するのか、主要なものだけ確認すればよいのか・・・。クライアントの規模やクライアントの経理担当者のスキルによっても、税理士の対応は1社1社異なっていませんか。クライアントへの対応は千差万別なのに、どのクライアントとも一律の契約書でよいのでしょうか。
では、クライアントに応じた契約書作成のポイントは、何でしょうか。
まず、ご自身の事務所等が、顧問業務、決算業務、申告書の作成業務について、クライアントに提供している標準的な作業内容をピックアップします。
例えば、日常の会計記帳はクライアントの経理担当者が行い、その会計データをお預かりして税理士が決算仕訳を入力、法人税申告書を作成し、その後、追加入力した会計データと法人税申告書の内容についてクライアントの確認・承認を得て、税理士が電子申告をするという流れがスタンダードだとします。
その内容を「業務内容」欄に落とし込みますと、次のようになるかと思われます。
「甲(クライアント)が作成した合計残高試算表等を基とした法人税/地方法人税/法人住民税/法人事業税申告書の作成及び所轄官庁に対する申告書の提出(電子申告の方法による。)」
上の文言は、業務内容に「法人税申告書作成」とだけ記載している場合と、どのような違いがあるでしょうか。「甲が作成した合計残高試算表等を基とした」との記載があることで、法人税申告書を作成するために、まず、クライアント側が会計データを作成しなければならないことがわかります。
これは当たり前のことですので、わざわざ契約書に明記する必要はないようにも思いますが、これを明記しておくことにより、何らかの事情で申告書作成の前提となるクライアント側が行うべき会計データ作成作業が遅れ、申告書の提出が期限内に出来なかったとした場合でも、申告書の期限内申告が不可となったことにつき、税理士だけが責任を問われるリスクが減少すると思われます(明記していない場合、税理士が責任を問われるケースが非常に多くなると思われます)。
少し長くなりましたので、「業務内容」欄のバリエーションについては、次回お話しさせていただきたいと思います。
・トラブルが発生した場合、契約書がないと不利になる可能性が高い
・契約書の見直しには、現在の契約形態に鑑みて標準契約書の作成から
・「業務内容」はなるべく具体的に記載する
なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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