【タイ】
ビジネス・経済・会計・税務・金融・労務ニュース

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【タイ】<br>ビジネス・経済・会計・税務・金融・労務ニュース

 本稿では、RSM Thailandからの寄稿により、初めてタイ進出を検討している日本企業および既にタイ進出している日本企業に向けて、タイのビジネス・経済・会計・税務・金融・労務に役立つ情報をお届けします。

タイ経済・ビジネス・産業の概況

 タイ経済の特徴は、安定的な成長と強力な輸出、活気のある国内消費マーケットです。タイには豊富な天然資源があります。熟練した費用対効果の高い労働力が外国の投資家を惹きつけ、それらの投資による産業の繁栄と発展を可能にしています。
 日本人、中国人、インド人観光客だけでなく、ビザ免除や到着ビザ(VOA)などの追加施策による外国人観光客全体の堅調な回復とサービス部門の成長に支えられ、2024年のタイの経済成長率は2.5%まで緩やかに回復すると予想されます。 
 国内旅行も政府の観光プロモーションにより堅調に拡大するでしょう。
 予想される経済成長は、政府消費支出と財・サービスの輸出の改善に加え、民間消費と公共・民間投資の継続的成長にも下支えされています。
 タイ投資委員会(The Board of Investment of Thailand:BOI、以下「BOI」という。)が提供した2024年1月から6月までの外国直接投資の統計・概要によると、タイへ投資している業種はさまざまで、機械・自動車産業、電気・電子産業、金属・素材産業、高価値サービス産業の順にランキングされています。
 日本は、タイにおいてさまざまな事業分野で長期に渡って投資を行ってきた主要な貿易相手国の一つといえます。
 タイ商務省(The Ministry of Commerce)事業開発局(The Department of Business Development:DBD、以下「DBD」という。)が開示した情報によると、2024年第1四半期から第2四半期にかけて、タイ外国人事業法(The Foreign Business Act B.E. 2542:FBA、以下「FBA」という。)に基づき、タイで事業を行うためのライセンスを付与、事業を許可された外国人投資家のうち、日本はタイに対する最大の投資国であり、その数は103社で、タイにおける外国人投資家の数の27%を占め、投資総額は440億1800万バーツに上ります。
 日本は、エンジニアリングサービス事業(自動車産業向けエンジニアリングデザイン、広告、ガラスデザイン、施工サービス等)、ウェブサイトコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)等の販売・サービス提供のためのソフトウェア開発サービス事業、製品製造サービス事業(自動車用排気管・マフラー部品、自動車用金属成形部品、ウォーターポンプ、エンジンオイルポンプ等)で優位を占めています。
 さらに、BOIが開示した2023年から2024年上半期までの外国直接投資統計によると、日本は、とりわけ自動車部品、電子、食品、バイオテクノロジー産業において、投資額が最も高く、BOI投資奨励に申請するプロジェクトの数が最も多い国の一つとなっています。
 しかし、世界各国は、燃料自動車よりも環境にやさしい電気自動車(EV)の使用を推進し普及させる方向に向かっています。
 タイ政府は、2024年7月26日にタイ国家電気自動車政策委員会(The National Electric Vehicles Policy Committee)がハイブリッド自動車(HEV)の物品税率を引き下げる措置を可決するなど、EVの使用・輸入・製造を奨励し普及させるためにさまざまな政策を実行していますが、日本においてEV産業は欧米や中国と比較して活発とはいえません。
 そのため、自動車産業はこの影響を受ける可能性があります。

日本企業が遵守しなければならないタイの会社・会計・租税・金融・労働法

 日本企業は、さまざまな場面でタイの法令を遵守する必要があり、タイにおける株式会社(Limited Company)、その他形態の法人設立をはじめとして、タイ民商法(The Civil and Commercial Code:CCC、以下「CCC」という。)の規定が適用され、法人の種類ごとに異なる規則が適用されます。
 非公開株式会社(Private limited Company)を設立するためには、CCC第1097条において、最低2名以上の自然人(タイ人または外国人)が発起人(すなわち、初期段階で会社登記を開始し、責任を負う者)となることが義務づけられています。
 全ての会社は、設立と同時に、最低2名の株主を有することが義務づけられており、その株主は個人または法人のいずれでもなることが可能で、また、発起人は会社の株主になることが義務づけられています。
 

 会社の会計期間は12ヶ月でなければなりません(ただし、決算期は暦年、6月30日または3月31日など変更可能です。)。
 会社定款に別段の定めがない限り、新規設立会社は登記後12ヶ月以内に決算を行わなければならず、その後、12ヶ月ごとに決算を行い、公認監査人の監査を受けなければなりません。
 会計期間の変更を希望する場合は、タイ歳入局(The Revenue Department:RD、以下「RD」という。)から書面による承認を得る必要があります。

 タイで事業を営んでいる企業に対しては、納税者の種類に応じて20%の法人所得税(Corporate Income Tax:CIT)が課されます。
 タイで事業を営んでいない企業に対しては、その所得の性質や受取企業の課税ステータスに応じて、さまざまな税率により源泉徴収税が課される場合があります。
 さらに、年間売上高が180万バーツを超える物品の販売およびサービスの提供をする事業者は、付加価値税(Value-Added Tax:VAT、以下「VAT」という。)の登録が義務づけられています。
 また、輸入業者は、登録の有無に関わらずVATの課税対象となり、VATは輸入時にタイ関税局(The Customs Department)で徴収されます。
 その他、タイにおける日本企業の事業活動に関連する税金として、事業税、印紙税、家屋・土地税、固定資産税などがありますが、これらに限定されるわけではありません。

 雇用法に関しては、タイには雇用者と被雇用者に適用されるさまざまな法令があり、企業はこれらを遵守しなければなりません。
 主な法令には、CCCとタイ労働者保護法(The Labor Protection Act B.E. 2541:LPA、以下「LPA」という。)があり、労働日、労働時間、休日休暇、報酬および解雇などさまざまな事項に関する基準と国内の最低賃金を定める省令があります。

日本企業に適用されるタイの投資優遇措置

 外国の投資家のタイに対する投資を促進するために、BOIの投資奨励、タイ工業団地公社(IEAT)、日本・タイ経済連携協定(JTEPA、以下「JTEPA」という。)など、日本企業に適用される多くの投資優遇措置があり、その詳細は以下の通りです。

 BOIは、タイで特定事業への投資を行う投資家を誘致するための重要な機関です。BOIの投資奨励により、日本企業はタイで税制上の優遇措置と非税制上の優遇措置のいずれか、または両方を享受することができます。
 BOIの投資奨励の適用を受けるためには、最低資本投資額、負債資本比率およびプロジェクトで使用する機械の状態などの条件を満たす必要があります。
 外国企業がタイで土地を所有することは通常禁止されていますが、投資奨励の適用後はBOIの条件の下にタイで土地を所有する権利を有することもできます。

 JTEPAに基づいて、日本投資家は、FBA第17条に基づく外国人事業許可証(Foreign Business License:FBL、以下「FBL」という。)の取得が免除されます。
 その代わりに、FBA第11条に基づき、FBLを取得するより簡便で迅速な外国人事業証明書(Foreign Business Certificate:FBC、以下「FBC」という。)を取得することができます。
 日本企業がJTEPAに基づいてFBCを取得することができる事業は以下の8事業です。

付番JTEPAに基づく事業要件
日本人出資比率の上限負債資本比率の上限その他
1小売業(酒類を除く)
– 自社またはタイにある関連会社が同一ブランドで生産したもの。
– 日本にある関連会社が同一ブランドで生産した自動車製品
75%3:1外国人株主の数に制限あり。
2卸売業(酒類を除く)
– 自社またはタイにある関連会社が同一ブランドで生産したもの。
– 日本にある関連会社が同一ブランドで生産した自動車製品
75%3:1外国人株主の数に制限あり。
3広告業50%3:1外国人株主の数に制限あり。
4ホテル業60%3:1– 客室数100室以上、資本金8億バーツ以上の高級ホテルおよびリゾート。
– タイで登記されたリミテッド・パートナーシップまたは株式会社以上の払込資本金を有する。
– 外国人株主の数に制限なし。
5飲食物販売業(レストラン)60%3:1– 450平方メートル以上の面積を有するレストラン。
– 5,000万バーツ以上の払込資本金を有する。
– タイで登記されたジェネラル・パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップまたは株式会社。
– 外国人株主の数に制限なし。
6一般経営コンサルティング・サービス業100%3:1タイで登記されたジェネラル・パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップまたは株式会社。
7あらゆる輸送サービスを除く物流コンサルティング業60%3:1タイで登記された株式会社。
8保守・修理サービス業
– 自社がタイで卸売する家電製品、自社またはタイにある関連会社が同一ブランドで生産した製品
– 日本の関連会社が同一ブランドで生産した家電製品
60%3:1– タイで登記された株式会社で最低資本金が1億バーツ以上。
– タイ国籍の取締役の数は、タイ人株主の数に比例しなければならない。
– 上級修理士の少なくとも半数はタイ国籍でなければならない。
– 少なくとも1名の外国人取締役がタイに居住しなければならない。
– 少なくとも1名の上級マネジャーがタイ国籍を有しなければならない。
– サービスセンターは1カ所のみ。
– OJTの提供、タイ人従業員に対する必要な情報と知識の提供など、タイ人に対する技術移転がある。

 さらに、タイ政府は、JTEPAおよびASEAN統一関税品目分類コード(AHTN)の実施を定める議定書(The Protocol governing the implementation of the AHTN)に基づく義務を遵守するため、原産地規則(The Rules of Origin)に従って商品は日本原産でなければならないという基準および条件の下、日本原産の商品に対する関税の免除および関税率の軽減に関するタイ財務省令(The Ministry of Finance regulations)を施行しています。
 輸入者は、タイ関税局(The Customs Department)の定める規則に従い、原産地証明書を提出する必要があります。

日本企業に関連するタイの会社・会計・租税・金融・労働法の改正

会社法

 2022年に、企業提携セグメントについて、現状にそぐわず事業者に不要な負担を生む規定があったため、CCCの大幅な改正が行われました。
 国の競争力強化の障害を排除し、企業合併の規定を追加することで事業運営の柔軟性を高めるのが狙いです。

会計・租税・金融法

 最近、タイ財務報告基準(The Thai Financial Reporting Standards:TFRS)およびタイ会計基準(The Thai Accounting Standards)における会計上の見積りの定義、会計方針の開示、単一取引から生じる資産・負債に係る繰延税金に関する改訂・改正と、TFRSの公表に伴う16の会計基準の改正が行われ、今後2027年までにも数多くの改訂・改正が予定されています。
 また、環境・社会・ガバナンス(ESG)レポートも2024年から注目されるようになりました。その実務運用にはまだ議論の余地がありますが、今のところ企業に対してはESGへの取り組みやその測定指標の開示を要求していません。

労働法

 2024年にタイ労働省(The Ministry of Labor)賃金委員会(The Wage Committee)は、最低賃金に関する通達(第12号)を発布し、全国の最低賃金を調整しており、施行の詳細は県ごとに異なります。

県数県名最低賃金日額
1プーケット370バーツ
6バンコク・ナコンパトム・ノンタブリ・パトゥムタニ・サムットプラカーン・サムットサコーン363バーツ
2チョンブリ・ラヨーン361バーツ
1ナコーンラーチャシーマー352バーツ

 さらにタイ政府は、タイ人労働者の生活品質を向上させるため、2024年10月1日に全国の最低賃金を日額400バーツまで引き上げることを発表しました。

 雇用法の面では、タイ政府はLPAに基づく省令第15号を発表し、従業員保護の水準を高めるためにLPAの一部条項を改正しました。
 重要な改正の一例として、出産関連休暇において、女性従業員は98日間の出産関連休暇とその出産関連休暇のうち45日分は有給で取得することができると規定され、2024年4月30日に施行されています。

日本企業が注意すべきタイの会社・会計・租税・金融・労働法の主要論点

会社・会計・租税法

 企業は、毎年財務諸表を作成し、公認監査人による監査を受け、会計年度ごとにRDおよびDBDに提出する必要があり、CIT申告書は、当該会計期間終了後150日以内に提出しなければなりません。  
 納税においても申告書の提出と同時に行う必要があります。
 さらに、前述のとおり、年間売上高が180万バーツを超える物品の販売およびサービスの提供をする事業者は、VATの登録が義務づけられています。
 また、輸入業者は、登録の有無に関わらずVATの課税対象となり、VATは輸入時にタイ関税局(The Customs Department)で徴収されます。

 VATの納付税額は、供給された商品およびサービスに課されたVAT(売上げVAT)から、VAT事業者が認められる仕入税額控除(仕入れVAT)を差し引いた金額となります。
 仕入先から発行されるタックス・インボイス(Tax Invoice)は、VAT事業者が仕入税額控除を請求するために保管しなければなりません。
 VATの申告は、毎月末から15日以内に行わなければなりません。
 また、VATの納税は、申告と同時に行わなければなりません。

 さらに、タイ国外の事業者が提供するサービスがタイ国内で利用される場合もVATの対象となる場合があります。
 この場合、VATを申告し納付する義務は、リバースチャージの仕組みにより、タイのサービス受領者に課されることになります。

 ある期間の仕入税額控除が、同期間の売上げVATを超える場合、納税義務者はVATの還付を請求することができます。
 また、超過控除額を繰り越し、翌月以降に生じるVATの納付税額と相殺することもできます。

金融法

 タイ中央銀行(The Bank of Thailand :BOT、以下「BOT」という。)が施行する外国通貨送金要件によると、タイへの送金額に制限はありませんが、その送金目的は融資、決済またはサービス料などの合法的なものでなければなりません。
 ただし、100万ドル以上の外貨を受領した者は、その受領日から360日以内にその資金を直ちにタイに送金し、BOTの認可機関に売却してバーツに両替するか、または、認可銀行に開設された外国通貨口座に入金する必要があります。

 海外送金は、認定機関(通常は商業銀行)を通じて行うことができます。
 ただし、送金目的が為替管理規則で制限されている場合、送金者は認定機関を通じて必要書類を提出し、BOTの事前の承認を得る必要があります。

労働法

 企業は、10名以上の正規従業員を雇用する場合、業務遂行に関するタイ語の書面による就業規則を作成することが義務づけられています。
 その就業規則は、LPA第108条に従い、事業所内に掲示しなければなりません。
 就業規則には、LPAに従って、労働時間、休日、賃金、時間外労働、休暇、解雇補償金および従業員福利厚生などの詳細を記載しなければなりません。
 また、これらの雇用条件を変更する場合、雇用者は先ず従業員の同意を得る必要がありますが、企業にとっては、事業運営上の障害となる可能性があるといえるでしょう。

タイへの進出手続き

 タイの法令に基づいて登記された非公開株式会社は、一定の条件下で外国人が100%所有することができるのが通常です。
 しかし、外国人がタイで特定の種類の事業活動を行うことは禁止されており、それらの事業はFBAの別表リストに記載されています。
 FBAは「外国人」と定義される企業が営んで良い、または営んではいけない事業を規制する法律です。
 FBAの適用範囲に入るため、第4条で「外国人」の定義を以下のように定めています。

 1) タイ国籍を有しない自然人
 2) タイで登記されていない法人
 3) タイで登記された法人で、次のいずれかに該当するもの

  a. 1)または2)に該当する者、あるいは1)または2)に該当する者に資本の額の2分の1以上を拠出された法人が、その資本の2分の1以上を保有する法人
  b. そのマネージングパートナーまたはマネジャーが1)に該当する者であるリミテッド・パートナーシップまたは登記されたジェネラル・パートナーシップ

 4) タイで登記された法人で、1)、2)または3)に該当する者、あるいは1)、2)または3)に該当する者に資本の額の2分の1以上を拠出された法人が、その資本の2分の1以上を保有するもの

 FBAは、外国人がタイで行うことを禁止または制限している事業の種類を以下の3つに分類しています。

 ● 第1種:外国人が営むことを禁止している事業。
 ● 第2種:内閣の承認のもとDBDからFBLを取得した場合にのみ外国人が営むことができる事業。
  (ただし、その申請企業の資本の40%以上はタイ人が保有し、かつ、取締役の5分の2以上はタイ人でなければなりません。)
 ● 第3種:外国人事業委員会(The Foreign Business Committee)の承認のもと、DBD外国人事業管理部(The Division of Foreign Business Administration)からFBLを取得した場合にのみ、外国人が営むことができる事業。

 FBAの第2種または第3種に該当する事業を行おうとする外国人は、タイで事業活動を開始する前にDBD外国人事業管理部にFBLを申請しなければなりません。
 しかし、外国人がFBA第12条に規定されるBOIの許可を得て第2種または第3種の事業を営む場合は、上記規制の対象外となります。
 その場合に外国人はFBLを取得する必要はありませんが、BOIから奨励証書が交付された後にFBCの取得を要する場合があります。

RSM Thailandのご紹介

Pardorn Suchiva
Legal Director

本稿のお問合せ

株式会社東京共同ホールディングス
事業開発企画室

TEL:03-5220-6201
Email:shozo-suehiro@tkao.com

PDF:【タイ】ビジネス・経済・会計・税務・金融・労務ニュース

本稿はRSM Thailandから寄稿された原稿に依拠して作成しております。本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではございません。本稿に記載されている情報は一般的なものであり、必ずしも貴社の状況に対応するものではございません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがございます。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではございません。個別事案の検討・推進に際して、貴社において何かしらの決定をする場合は、貴社の顧問税理士等、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。

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