特許庁に商標登録出願をすると、審査官による審査が行われます。商標が登録されるためには様々な要件があり、要件を満たさない場合、審査官から商標登録ができない旨の連絡が来ます。これを「拒絶理由通知」といいます。
今回の記事では、商標登録出願をした際に拒絶理由通知を受け取ってしまったケースを想定し、対応にあたっての留意点や対処法を解説します。
商標登録出願は、役所に行う申請や届出と違って、特許庁に出願された商標の全てが登録されるわけではありません。商標登録が出願されると、特許庁の審査官は、所定の方式的要件及び実体的要件を満たす出願であるかを審査し、全ての要件を満たした商標登録出願について登録を認めます。一方、それらの要件を一つでも満たしていないと判断された場合には、その要件を満たしていない理由を記載した「拒絶理由通知書」が出願人に送達されます。
拒絶理由通知を受けることなく商標登録が認められることが理想ではありますが、「拒絶理由通知書」を受けた場合でも、適切な対応を取ることで、拒絶理由通知書に記載された理由(拒絶理由)を解消できることがあります。
以下では、拒絶理由通知を受け取った場合の対処法について解説します。
商標登録出願が行われると、特許庁は、出願人が商標登録を受けようとする商標及び指定商品・指定役務が商標法の規定に違反しないかを審査します。特許庁の審査官は商標登録出願が商標法第15条各号のいずれかに該当すると判断した場合には、商標登録できないことを記載した「拒絶査定」という処分を行いますが、いきなり拒絶査定をすることはできません。拒絶査定の前に、拒絶の理由を記載した「拒絶理由通知書」を出願人に送り、出願人にその拒絶理由通知書に記載されている拒絶理由を解消するための応答の機会を与えなければなりません。
以下、拒絶理由通知に対して取ることができる手続きとその手続きにおける留意事項について解説します。
⑴ 意見書の提出
拒絶理由通知書に記載されている審査官の事実認定に誤りがある場合やその事実認定に基づく審査官の判断に不服がある場合には、その旨を具体的に記載した「意見書」と呼ばれる書面を提出することができます。審査官は意見書に記載された内容が妥当か判断し、拒絶理由が解消したと判断した場合には、登録査定を行います。
一方、意見書に記載された内容によっても拒絶理由が解消しない場合は、拒絶査定を行います。
⑵ 手続補正書の提出
拒絶理由通知書の内容によっては、願書に記載された指定商品・指定役務を補正する手続補正書を提出することで、拒絶理由が解消する場合があります。
手続補正書の提出と併せて拒絶理由が解消した旨や補正の理由を記載した意見書を提出することで審査官の理解を助けることもできます。
⑶ その他(上申書の提出・面接の依頼)
拒絶理由通知書により先行する他人の登録商標の存在を知った場合には、その他人と商標権の譲渡交渉やその他人の登録商標の取消しを求める不使用取消審判などを行うことで、拒絶理由を解消できる場合があります。
そのような手続きを取った場合には、その手続きが終了するまで審査の結果を猶予してほしい旨の上申書を提出することもできます。
また、拒絶理由通知書には審査官が商標登録出願を拒絶すべきものと判断した理由が記載されますが、それを読んでも拒絶理由の内容が分からない場合や指定商品の補正の仕方について分からない場合などにおいては、担当の審査官に面接を依頼し、面接を通じて、審査官との意思疎通を図ることもできます。
拒絶理由通知に対して意見書が提出されると、審査官は再度審査を行い、意見書の主張内容が妥当と判断した場合には、登録査定を行います。
意見書に記載する内容は拒絶理由の内容によって異なります。拒絶理由は様々な理由があるため全てをお伝えすることはできませんが、以下では、実務上よくみられる代表的な拒絶理由である商標法第3条第1項第3号違反と商標法第4条第1項第11号違反に対する意見書に係る留意事項について解説します。
⑴ 拒絶理由が商標法第3条第1項第3号違反の場合
この拒絶理由は、出願に係る指定商品・指定役務の品質・質、産地などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当すると審査官が判断した場合に通知されます。例えば、指定商品が「入浴剤」の場合に、「疲労回復」という商標登録を出願した場合や、指定商品が「ワイン」の場合に、「フランス」という商標登録を出願した場合が該当します。
この拒絶理由通知を受けた場合には、例えば、インターネットなどで過去に登録された商標を調べて、出願した商標が実際の取引において指定商品・指定役務の品質・質や産地などを表示するものであるかどうか、又は出願に係る商標が普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標かを検討します。審査官の判断が妥当でない場合には、具体的にその旨を主張するとともにその主張を裏付ける証拠を意見書に添付して提出します。
⑵ 拒絶理由が商標法第4条第1項第11号違反の場合
この拒絶理由は、出願に係る商標が他人の先願先登録商標(自己の出願よりも先に出願されており、かつ先に登録されている商標)と同一又は類似であり、かつ出願に係る商標の指定商品・指定役務が他人の先願先登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似のものと審査官が判断した場合に通知されます。よくあるケースとしては、例えば、出願に係る商標が「○〇△△」であって、指定商品が「携帯電話」であるのに対し、他人の先願先登録商標が「△△○○」であって、指定商品が「携帯電話」である場合のように、指定商品が全く同一であって、商標が少し似ているようなケースが該当します。或いは、出願に係る商標が「○×△」であって、指定商品が「シャンプー」であるのに対し、他人の先願先登録商標が「○×△」であって、指定商品が「ヘアーリンス」である場合のように、商標が全く同一であって、指定商品が用途的に近いようなケースなどが該当します。
この拒絶理由通知書を受けた場合には、審査官が引用する自己の商標が本当に先願先登録商標と同一又は類似するか、指定商品・指定役務が同一又は類似するかを検討します。
非類似と判断する場合には、具体的にその旨を主張するとともにその主張を裏付ける証拠を添付して意見書を提出します。なお、商標や指定商品・指定役務が同一又は類似するかを判断するためには専門的な知識や拒絶理由を解消するためのノウハウが必要となりますので、意見書を提出するにあたっては弁理士に相談することをおすすめします。
拒絶理由通知書に対して提出期間内に手続補正書が提出されますと、審査官は再度審査を行います。その補正が適法であって、拒絶理由が解消されたと判断した場合には、登録査定を行います。補正書で補正する内容は、拒絶理由の内容によって異なりますが、以下、実務上よくみられる代表的な拒絶理由である商標法第6条違反と商標法第4条第1項第11号違反に対する補正書での留意事項について解説します。
なお、手続補正書を提出することで願書の内容を補正することは可能ではありますが、一般的には願書に記載された商標の補正は認められず、要旨変更とされて補正が却下されます。よって、補正を行う場合には、願書に記載された指定商品・指定役務を補正する場合に限り拒絶理由を解消することができるものと理解してください。
⑴ 拒絶理由が商標法第6条違反の場合
この拒絶理由は、審査官が願書に記載されている指定商品・指定役務が不明確であることなどを理由に出願人が権利を取得しようとしている指定商品・指定役務の範囲を特定できないと判断した場合に通知されます。指定商品・指定役務には「区分」という概念があり、全ての指定商品・指定役務は第1類から第45類までのいずれかに分類されています。例えば、指定商品・指定役務が「被服」であった場合には第25類を指定して出願しますが、第25類以外の区分に「被服」が含まれているような場合にこの拒絶理由が通知されます。
実務上、審査官より指定商品・指定役務の補正案が提示されることが多いため、その補正案の内容に納得できる場合には、補正案にしたがって指定商品・指定役務を補正することで拒絶理由は解消されます。先ほどの例では、「被服」を削除するような提案がされます。
一方、審査官の補正案が出願人の意図する指定商品・指定役務と異なる場合には、例えば「特許情報プラットフォーム」(J-PlatPat)にて過去の登録例の指定商品・指定役務を参考にし、適切な表示に補正することにより拒絶理由を解消できる場合があります。適切な表示が分からない場合や適切か否かの判断が困難な場合には、審査官と面接を行った上、補正を行うことも有効です。
⑵ 拒絶理由が商標法第4条第1項第11号違反の場合
この拒絶理由は、出願に係る商標が他人の先願先登録商標と同一又は類似であり、かつ出願に係る商標の指定商品・指定役務が他人の先願先登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似のものと審査官が判断した場合に通知されます。
出願に係る商標が他人の先願先登録商標と同一又は類似であるとの判断を覆すのが困難な場合には、他人の先願先登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似であると判断されている自己の指定商品・指定役務を削除する補正を行うことにより、拒絶理由を解消することができます。
例えば、自己の出願商標が「りんご」で、指定商品が第9類の「携帯電話」と第16類の「書籍」である場合に、すでに他人の先願先登録商標である「アップル」が指定商品「携帯電話」で登録されていたときには、「携帯電話」を削除することで拒絶理由を解消することができます。
商標登録出願後、拒絶理由通知書を受け取った場合に留意すべき点や対処法について解説しました。拒絶理由通知書には商標登録できない理由が記載されていますが、適切な対応を取ることによって拒絶理由を解消できる可能性があります。一方、拒絶理由通知書に対し適切な対応を取らなかったために、本来であれば登録できたはずのチャンスを逃してしまうこともあります。
拒絶理由通知への対処は専門的な判断が必要な場合がありますので、拒絶理由通知書を受けて困っている場合は、知的財産の専門家である東京共同弁理士法人までお気軽にお問合せください。
なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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