本コラムでは、商標法の新制度であるコンセント制度について、制度の内容・適用時期など基本的なコンセント制度の概要から手続きの流れ、申請時に求められる必要書類まで詳しく解説します。
コンセント制度についてまだよくわからない、重要なポイントだけでも押さえておきたいというご担当者様はぜひご一読ください。
企業が新たに商標の出願をするにあたり、先行する他人の類似の登録商標が存在すると、その商標の存在を理由に登録が認められない場合があります。そのような場合の対処法として、令和5年度の商標法改正により、コンセント制度が整備されました。コンセント制度は、先行する他人の類似の登録商標が存在する場合においても、自社の商標の登録を可能にするために理解しておく必要がある新制度です。
そこで、今回は、コンセント制度の内容から具体的な手続き、コンセント制度利用後に押さえておくべきポイントについて紹介します。
コンセント制度とは、他人の先行登録商標と同一または類似の商標が出願された場合であっても、当該先行登録商標の権利者による同意(コンセント)があれば、新旧両方の商標の併存登録を認める制度です。
令和5年改正前の商標法では、先行する他人の登録商標と同一または類似する商標は、出所混同のおそれがあるとして、当該登録商標と同一または類似する商品・役務についての登録が受けられませんでした。一方、海外では多くの国でコンセント制度が導入されており、国内の中小企業など商標制度の利用者から、コンセント制度の導入を求める声が上がっていました。
そこで、令和5年の商標法改正で、①先行する登録商標の権利者が同意し、かつ、
②需要者に混同が生じるおそれがない場合には、併存登録を認めるとするコンセント制度が導入されたのです。
なお、コンセント制度に係る改正商標法の規定は、令和6年4月1日から施行されました。よって、コンセント制度は、令和6年4月1日以降にした出願についてのみ適用されることになります。
※出典:特許庁「コンセント制度の導入」
前提として、先行する他人の登録商標と同一または類似する商標を、当該登録商標と同一または類似する商品・役務について出願した場合には、商標法第4条第1項第11号に該当することを根拠に特許庁より拒絶理由通知が発行されます。
しかし、出願した側に「先行する登録商標とは類似していない」という考えがあるにもかかわらず、特許庁により機械的に審査され、拒絶されてしまう場合もあります。そこで、従来は、拒絶理由を解消するための対応として、①意見書を提出して類似性を争う方法、②手続補正書を提出して他人の登録商標と同一または類似する商品・役務を願書から削除する方法、③先行商標に対して不使用取消審判を請求する方法、④出願人と先行する登録商標の権利者の名義を一時的に一致させる方法(アサインバック)のいずれかの方法が採られていました。
アサインバックとは、先行する登録商標と同一または類似の商標を出願する際に、出願人を一時的に先行する登録商標の権利者に変更し、出願した商標または先行する登録商標のいずれかを譲渡して、類似する2つの商標の名義人を同一にして商標登録を受けた後に、商標を譲渡し直す方法を指します。
例えば、出願人Aが商標aの登録をしようとしたところ、別のBが先行する商標bをすでに登録していたとします。その場合、商標aの出願人を一時的にBに変更し、先行登録商標bの権利者と「同一人物」の出願とします。そして、登録査定が下りた後に、商標aの出願人をBからAに戻します。
また、アサインバックには次の2つのパターンがあります。①出願人が先行商標権者から先行する登録商標の商標権を譲り受け、出願した商標が登録された後に、譲り受けた商標を先行商標権者に対して譲渡するパターンと、②出願人が先行商標権者に出願した商標を譲り渡し、当該商標が登録された後に、譲り渡した商標を先行商標権者から譲り受けるパターンです。前述の例示は②のパターンとなります。
コンセント制度が使われるのは、商標登録出願をしたところ、他人の類似の商標登録(審査中のものを含む)の存在が判明し、そのことを理由に拒絶理由通知(登録の要件を満たしていない旨の通知)が特許庁より届いた場合です。
以前は、そのような拒絶理由通知が届いた場合の主な解決方法は2つでした。「出願した商標は先に登録された商標または出願された商標と似ていないことを主張して特許庁の判断を覆す方法」もしくは「他人の商標登録を何らかの方法で取り消す方法」を採ることで、登録を認めてもらうことになります。
しかし、この2つの解決方法は、どちらも登録を認めてもらうにはハードルが非常に高い場合があります。そこで利用できる方法として新たに設けられたのが、コンセント制度であり、上記2つの解決方法に比べてハードルが低い場合があります。例えば、先行する他人の登録商標が、競合関係ではなく、コンセント制度の手続きに協力してもらえそうな会社に所有されている場合が該当します。
コンセント制度を利用する場合でもアサインバックを行う場合でも、共通しているのは先行商標権者と交渉し、先行商標権者の協力を得る必要がある点です。また、どちらも類似する商標が市場に併存する点も共通しています。
一方、コンセント制度を利用すれば、アサインバックを行う際に必要な2回もの名義変更の手続きが省け、2回の名義変更手続きに必要な印紙代もかかりません。この点は、アサインバックよりもコンセント制度を利用すべきメリットといえます。
コンセント制度の導入により、以下のように、商標法第4条第1項第11号に該当する旨の拒絶理由通知を受けた場合でも、所定の書面を提出することで拒絶理由は解消され、登録を受けられます。拒絶理由を解消するために必要なのは、「先行商標権者の同意」と「出所混同のおそれがないと審査官に認められること」です。以下では、コンセント制度の審査の流れについて説明します。
※出典:特許庁「コンセント制度の導入 2.改正の概要」
※引用:特許庁「コンセント制度の導入」
「拒絶理由通知書」とは、出願人Aの商標と先行商標権者Bの登録商標とが類似であると特許庁の審査官が判断した場合に、商標法第4条第1項第11号違反を理由に、出願人Aに対して通知される書類です。
続いて、当事者間の合意に基づき合意書面を作成し、提出します。書面には「先行商標権者の承諾」および「商標の構成、使用状況等・混同が生じないことの説明」を記載します。
合意書面等のひな形は、特許庁の商標審査便覧「商標法第4条第4項の主張に関する資料の取扱い」(特許庁:商標法第4条第4項の主張に関する資料の取扱い)内に掲載されていますのでご確認ください。
審査官は、出願人から書面の提出があった場合には、提出書面の内容を考慮した上で先行する登録商標との出所混同のおそれの有無を審査します。そして、先行商標権者の同意があり、出所混同のおそれがないと判断した場合には、出願人の商標について商標法第4条第1項第11号の適用を除外し、コンセント制度の適用が認められた商標として登録査定の判断をします。
一方、審査官が先行商標権者の同意がない、出所混同のおそれがあるなどの理由があると判断した場合は、コンセント制度の適用は認められません。その場合、出願人の商標は、商標法第4条第1項第11号に該当することを理由に拒絶査定となります。
コンセント制度の利用が認められ、出願商標の登録が認められたからといって安心せず、注意しなければならないことがあります。それは、類似する商標が市場に併存することになる点です。コンセント制度により、複数の類似する登録商標がそれぞれ異なる権利者に属することになり、場合によっては、出所の混同が生じ得るおそれがあります。
この点を考慮し、商標法では、混同防止表示の請求(第24条の4)と、不正使用取消審判の請求(第52条の2)を行うことを認めています。
※出典:特許庁「第7章 商標におけるコンセント制度の導入」
※引用:特許庁「コンセント制度の導入」
「混同防止表示の請求」は、コンセント制度により出願人Aの商標が登録され、先行商標権者Bの登録商標と併存することになった後、混同を防ぐために適当な表示を付すべきことを請求できる制度です。請求が認められるためには、一方の権利者による商標の使用の結果、他方の権利の業務上の利益が害されるおそれがあると判断される必要があります。
なお、アサインバックが行われた場合においても、混同防止表示の請求を行うことが可能です。
「不正使用取消審判の請求」は、出願人と先行商標権者との間でトラブルが生じた場合に、誰でも取消審判請求ができる制度です。請求が認められるためには、当事者である出願人・先行商標権者のいずれかが、不正競争の目的で、一方の商標と出所混同を生じさせる使用をした結果、現実に出所混同が生じていると判断される必要があります。
なお、アサインバックが行われた場合においても、不正使用取消審判の請求を行うことが可能です。
本コラムでは、商標法における新制度であるコンセント制度について解説しました。令和5年度の商標法改正により、出願した商標と類似する先行登録商標が存在しても、簡便な手続きで登録が可能となるコンセント制度が整備されました。しかし、同制度を活用して商標登録が無事に認められても、その後、先行商標権者との間でトラブルが発生するリスクもあるので注意が必要です。
商標制度の利用者が確実に商標権を取得できる書類を作成するには、経験や知識が豊富な弁理士への依頼をお勧めします。東京共同グループである東京共同弁理士法人では、商標の出願から権利化まで、各種手続の代理業務を行っています。また、商標をはじめとする知的財産権の取扱いや活用に関するさまざまなサービスを通して、知的財産権戦略の立案と実行を支援します。
商標の出願や権利化についてお困りの際は、お気軽に東京共同弁理士法人までお問い合わせください。
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