海外子会社への貸付時、金利はどう設定する?
親子ローンの金利設定を徹底解説

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海外子会社への貸付時、金利はどう設定する?<br>親子ローンの金利設定を徹底解説

 海外子会社を有する企業では、親会社から海外子会社へ資金を提供するケースは珍しくありません。

 日本の親会社から海外子会社に金銭を貸し付ける場合、「親子ローン」による貸付が一般的です(注1)が、海外子会社との間で実行される親子ローンは一般的に移転価格税制上の対象となります。従って、親子ローンに付される金利は貸手及び借手が所在する国で規定される移転価格税制に準拠する必要があり、当該規定に照らして適正な金利でなければ追徴課税が発生するリスクが残ります。

 本記事では親子ローンに係る金利の設定方法、実務上の注意点、親子ローン以外の融資方法を解説します。

(注1) 日本の貸金業法上の親子ローン等の特例に該当しない貸付を行う場合、当該貸付は貸金業に該当することになり貸金業登録が必要となります。

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海外子会社への貸付と移転価格税制

 本節では、親子ローンの概要を踏まえて、海外子会社への貸付に関する移転価格税制の概要及び移転価格対応の必要性について先ずは解説します。

親子ローンの概要と基本原則

 親子ローンとは日本の親会社から海外子会社に金銭を貸し付けるスキームのことをいいます。基本的には日本の親会社が金融機関から資金を調達し、日本の親会社を通じて海外子会社に金銭を貸し付ける仕組みとなります。 親子ローンでは日本の親会社と海外子会社間で、元本貸付、利息の受払い、元本返済が行われます。親子ローンの金利は移転価格税制に則って設定される必要があります。

移転価格税制とは何か?

 移転価格税制とは国外関連取引を通じて発生し得る所得の国外への移転を防止して、
自国の税収確保を目的とする制度のことをいいます。

 移転価格税制はOECDが中心となって作成したグローバルの指針である「OECD移転価格ガイドライン」に基づき、本ガイドラインと矛盾することがないようにOECD加盟国が自国の税制等に落とし込む形式で成立しています。

 日本では2022年1月にOECD移転価格ガイドライン(2022年版)が公表されたことを受けて、移転価格事務運営要領が2022年6月に改正されています。

※出典:国税庁「OECD租税委員会による「OECD移転価格ガイドライン2022年版」の公表について(令和4年1月)」
「移転価格事務運営要領」の一部改正について(事務運営指針)
「移転価格事務運営要領」(事務運営指針)新旧対照表

海外子会社への貸付の重要性

 海外子会社の資金調達を目的として日本の親会社から金銭を貸し付ける場合、海外子会社から適正な金利(独立企業間価格)で利息を収受する必要があります。 適正な金利より低い水準で利息を収受した場合、日本の税務当局の観点から海外子会社に所得が移転したと見做され、親会社側で移転価格課税リスクが生じます。一方で、適正な金利より高い水準で利息を収受した場合、海外子会社の現地税務当局の観点から日本の親会社に利息を支払い過ぎていると見做され、海外子会社側で移転価格課税リスクが生じます。このように、いずれか一方の税務当局から過大又は過少と見做されることによって移転価格課税リスクが生じることから、移転価格税制に則った適正な金利を設定したうえで、金利設定の根拠を合理的に説明できるように準備することが肝要です。

親子ローンの金利設定方法

 上述のとおり親子ローンで金銭を海外子会社に貸し付ける際、移転価格税制に則った金利で設定する必要があります。親子ローンといった金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合には、2022年6月に改正された「移転価格事務運営要領」の3-7及び3-8が参考になります。

 改正前は①借手の銀行調達金利に基づく設定方法、②貸手の銀行調達金利に基づく設定方法、③国債の利回りに基づく設定方法の順位で金利を設定する方法が認められていました(※出典:国税庁「移転価格事務運営要領」の一部改正について(事務運営指針)」)。

 しかし、改正後の移転価格事務運営要領では、借手の信用力、貸付期間、貸付の諸条件等に基づいて金利を設定することが求められています。

 また、金利は変動金利又は固定金利、保証又は担保の有無等の貸付の契約条件、取引における関連当事者の機能・リスク、金利市場等の状況、事業戦略の観点を鑑みて設定することが重要だと考えられています(※出典:国税庁「移転価格事務運営要領3-7」、「租税特別措置法66の4(3)-3)」)。

 さらに、比較対象取引を現実に行われる取引の中で見いだすことが困難な場合は、借手である海外子会社の見做し信用格付(信用力)を評価し、当該信用格付に基づいて金利を算定する(借手となる海外子会社と同じ信用格付の事業体が発行する債券利回りや貸付金利等を基に独立企業間価格を算定する等)こととなります(※出典:国税庁「移転価格事務運営要領3-8」、「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集 事例4 前提条件2」)。

 加えて、金利は関連当事者国の移転価格税制及び移転価格実務を踏まえて設定することが重要なため、借手が所在する国の移転価格税制も確認しておくことが望ましいと言えます。

 このように親子ローンの金利を設定する際は、関連当事者国の移転価格税制や移転価格実務の観点を踏まえ、適正な金利を算定し設定することで、移転価格課税リスクを低減することが可能となります。

実務上の注意点と戦略

 ここからは親子ローンにおける実務上の注意点、金利設定の重要性を解説します。

貸付のロールオーバー(転がし)とその影響

 事業会社で実行されている1年以内の短期親子ローンにおいては、短期の金利を適用しているケースが多く見られますが、ローン実行時は適正な短期金利を設定していたとしても、元本の返済実績がともなわず、契約書面上のみ新たに親子ローンを実行(又は自動延長)させるようなロールオーバーをしている場合、実質的に長期の親子ローンと見做される可能性があります。

 基本的に市場金利は長期になるほど金利が高くなる傾向があるため、親子ローンの貸付期間が長いほど金利が高くなり、一方で1年以内の短期親子ローンでは適用する金利が低くなると考えられます。税務調査において実質的に長期の親子ローンと見做された場合、適用されている短期金利が適正ではないと指摘を受ける可能性があります。

子会社等の倒産防止のための貸付とその影響

 海外子会社に対して、適正な金利よりも低い金利で金銭を貸し付けているとされた場合、寄附金(国外関連者に対する寄附金)に該当する可能性があります(※出典:国税庁「法人税基本通達9-4-2」)。寄附金に該当しないと判断されるためには、貸付が倒産防止でやむを得ず実施するものであり、かつ、合理的な再建計画に基づくものでなければなりません。

 合理的な再建計画であるか否かは、支援額や再建管理の有無、支援者の範囲や支援割合の合理性など、個々の事例に応じて総合的に判断されます。

貸付のリスクと金利設定の重要性

 事業会社の親子ローンは、貸手となる日本の親会社の調達金利をベースに逆ザヤにならない程度の若干のコストを加えた金利でよいと考えている経営者や経理担当者も少なくはないと思います。

 しかしながら、金融取引は他の取引(例:棚卸資産取引 等)と同様に取引金額の規模いかんに関わらず移転価格税制が適用されることから、基本的にはすべての親子ローンの金利について、独立企業間価格であることが求められます。

 したがい、独立企業間価格であるかどうかの検討をせずに金利を設定した場合、税務調査において抗弁できず、より高い金利によって課税されるリスクが残ります。 なお、租税条約に関する届出(利子に対する所得税の軽減・免除)において、海外子会社が所在する国で届出を提出する際に、移転価格文書の提出や金利のベンチマーク分析が求められるケースも出てきていることから、ローン実行前に関連当事者国での対応も踏まえたうえでの検討を行うことが理想的です。

海外子会社への融資の代替手段

親子ローンのほかに、海外子会社に金銭の貸付が可能な2つの手段を解説します。

信用保証協会付融資の活用

 信用保証協会とは信用保証協会法に基づき、中小企業の事業資金調達を支援する公的機関のことをいいます。信用保証協会はすべての都道府県に設置されており地域密着型の保証業務を実施しています。

 信用保証協会付融資から資金を調達する場合、信用保証協会に保証を申し込み、信用保証料を支払います。信用保証協会側が「連帯保証人」になることで、万が一返済が滞ったときは借手に代わって信用保証協会が返済を立て替えるという仕組みです。

 ただし、信用保証協会が返済を立て替えるからといって、返済を免れることができるわけではありません。立替え後は信用保証協会に返済する必要がある点に注意が必要です。 なお、信用保証協会付融資のなかには、「海外展開支援」という保証商品もあります。親子ローンと同様の方法で運転資金の融資を受けることが可能です。

日本政策金融公庫の融資プログラムの活用

 日本政策金融公庫の融資プログラムでは、海外展開に関する貸付が用意されており、海外展開に必要な運転資金や準備資金に活用できます(※出典:日本政策金融公庫「海外展開・事業再編資金 海外展開・事業再編資金の概要」)。

 信用保証協会や日本政策金融公庫による融資を海外子会社に転貸する資金として利用することも可能です。ただし、海外子会社の信用力が不十分な場合、日本の親会社によるスタンドバイL/C(信用状)の差入れを求められる可能性があります。

 スタンドバイL/Cとは金融機関が現地金融機関に融資を保証するために信用状を発行し、当該現地金融機関より現地通貨で資金を調達する仕組みです。この場合、移転価格税制の適用となる債務保証委託取引の対応を検討する必要があるため別途注意が必要です。

 また、日本の親会社が日本政策金融公庫から資金を調達し海外子会社へ転貸する場合、当該日本政策金融公庫との契約において、転貸に関する追加の金利(リスクプレミアム)を海外子会社から収受してはならない条項が盛り込まれる可能性があります。 転貸に関する追加の金利を収受しない場合は、税務調査対応として少なくとも海外子会社への転貸のために費やした総コスト等を別途収受するか検討する必要があります。

まとめ

 本コラムでは親子ローンに関する移転価格の概要、適正な金利設定方法、親子ローン以外の融資の手段等について解説しました。

 親子ローンで海外子会社に金銭を貸し付ける際、借手となる海外の子会社の信用力、貸付期間、貸付の諸条件等を考慮したうえで金利を設定する必要があります。
 税務調査の結果、適用金利が独立企業間価格であると認められない場合、より高い金利によって課税される可能性があるため注意が必要です。
 なお、親子ローン以外に信用保証協会付融資、日本政策金融公庫の海外展開の融資も検討手段として考えられます。海外子会社への転貸も可能と思われますが、スタンドバイL/Cの差入れ等の検討も別途必要になる可能性があるため注意が必要です。

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なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
 本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 香坂 慎太郎

    東京共同会計事務所 移転価格アドバイザリーグループ
    統括
    TKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社
    取締役副社長

    移転価格の専門家として10年以上の経験を有し、日系多国籍企業の国際取引における様々な課題に対して幅広いアドバイザリーサービスを提供。特に、無形資産取引及びグループファイナンス取引の課題に対するソリューションの提供を得意とする。

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  • 渡部 公丞

    東京共同会計事務所 移転価格アドバイザリーグループ
    マネージャー
    TKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社
    取締役

    国内外の金融機関等を中心に、移転価格に係るリスク評価、移転価格文書の作成、税務調査対応からM&A関連の税務デュ-デリジェンスに至るまで様々な業務を担当。
    事業会社のグループファイナンスに関する移転価格コンサルティングにも従事しており、豊富な経験を有する。

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