移転価格におけるローカルファイルとは?
概要や移転価格ポリシーとの関係性を解説

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移転価格におけるローカルファイルとは?<br>概要や移転価格ポリシーとの関係性を解説

 平成28年度に行われた税制の改正に伴い、移転価格税制における文書化制度が整備されました。
その中でも、中小企業にとっても重要であるローカルファイルの概要について解説します。

移転価格文書化制度について

 移転価格税制とは、国外関連者との取引を通じて発生し得る利益の移転を防止して、自国の税収確保を目的とする制度のことです。たとえば、日本の親会社から海外の子会社に商品を販売する際、通常よりも安い価格で販売した場合は、親会社の利益は通常の取引よりも少なくなり、結果として取引を通じた利益が日本から海外へ移転します。

※ 出典:財務省「移転価格税制の概要

 従来から日本にも移転価格税制は存在していますが、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの勧告(行動 13「多国籍企業情報の文 書化」)を踏まえ、平成 28 年度税制改正により、租税特別措置法の一部が改正され、移転価格税制に係る文書化制度が整備されました。
 ここでいう文書化とは、「事業概況報告事項(マスターファイル)」「国別報告事項(CbCレポート)」「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)」の3つの移転価格文書を指します。

 ローカルファイルに関しては次章で詳解するため、まずはマスターファイルとCbCレポートについて簡単に解説します。

マスターファイル

 マスターファイルとは、税務当局が重要な移転価格リスクを特定できるように、多国籍企業グループのグローバルな事業活動や移転価格ポリシーに関する概要を記載した文書です。主な記載内容としては多国籍企業グループの構成会社の名称や住所、各構成会社の事業概況、グループ内の金融活動、財務状況(連結財務諸表等)と税務当局との事前確認等の状況などが含まれます。

 後述するローカルファイルが個々の国外関連取引を記載するのに対して、マスターファイルにおいては、多国籍グループの事業活動の全体像を、文章や図表を用いて記載する点が異なります。

 マスターファイルは「前年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人」に提出が義務付けられていますが、基本的には内国法人の1社が代表して提出すれば良く、実務上は最終親会社が行っているのが一般的です。

※ 出典:国税庁「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし

CbC レポート

 「国別報告事項」とは、多国籍企業グループにおける国別の活動状況に関する情報のことです。報告様式は国税庁のホームページに公開されており、表1「居住地国における収入金額、納付税額等の配分及び事業活動の概要(注)」、表2「居住地国等における多国籍企業グループの構成会社等一覧(注)」、表3「追加情報(表1、2について参考となるべき事項)(注)」で構成されています。

※注:国税庁「国別報告事項 表1、表2、表3
※ 出典:国税庁「C1-60 特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供

 マスターファイルと同様に、国別報告事項は「前年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループの構成会社等である内国法人」に提出義務がありますが、提出義務の免除は国により基準が異なるため、国外関連者が所在している国の制度を確認する必要があります。

※ 出典:国税庁「価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし

ローカルファイルとは

 移転価格税制では、上記2つの書類に加えてローカルファイルも必要になります。ローカルファイルとは、国外関連取引を行った多国籍企業が独立企業間価格を算出する際に必要とされる書類であり、確定申告書を提出する期限までに作成または取得して保存しなければなりません。この義務を「同時文書化義務」といい、前事業年度における国外関連者との取引金額が50億円以上、または無形資産取引金額が3億円以上となる法人が、ローカルファイル作成義務の対象となります。

 税務調査においては、ローカルファイルの提出を求められた場合、同時文書化義務の対象法人は税務調査官が指定する期日の45日以内に提出しなければなりません。なお、同時文書化義務の対象法人に該当しなくても(つまり、全事業年度における国外関連者との取引金額が50億円以上に達していなくとも)、税務調査において「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイルに相当する書類)」が求められる場合があり、税務調査官が指定する期日の60日以内に提出する必要があります。このことから、国外関連取引はその取引金額の多寡に関わらず独立企業間価格で行われていることが当然に求められていることが分かりますし、海外で事業展開し国外関連者と取引を行っているのであれば中小企業にとっても無視できるものではないと言えます。

※ 出典:国税庁「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし

ローカルファイルと移転価格ポリシーの関係

 ローカルファイルは「移転価格ポリシー」と深い関係性があります。移転価格ポリシーとは、移転価格税制に基づくグループ内取引の価格設定方法と利益配分の考え方に関する社内における基本方針のことを指します。

 移転価格ポリシーは移転価格税制上、策定が義務付けられているものではありませんが、一般に検討されるべき要素として、グループ内取引に関わる取引当事者の機能リスク、国外関連取引の独立企業間価格を求めるための独立企業間価格算定方法、それを適用する際の検証対象・検証単位、及び価格(利益)水準などが挙げられます。

 基本的に、移転価格ポリシーとローカルファイルはセットで運用することを想定する必要があります。具体的には、グループ内取引を社内で定めた移転価格ポリシーに沿って運用し、その運用結果としての実績値(価格や利益)をローカルファイルで検証し、税務調査においてその妥当性を示すという流れが想定されます。移転価格ポリシーが存在しない状態で行った国外関連取引について、ローカルファイルで事後的な理屈付けにより合理性を検証するのは一般的に困難であることから、ローカルファイルはあくまでも移転価格税制に則った取引を行った結果を検証する資料という位置付けになります。

 また、移転価格ポリシーをマスターファイルやローカルファイルを作成する際の基礎とすることで、それらの移転価格文書の記載に一貫性を確保でき、移転価格調査が行われた際には調査官に説得力のある説明ができます。

 なお、グループ内での移転価格設定方針を策定し、これを社内に周知することで、それぞれの現場判断で決められてきた価格設定と移転価格税制の整合性を確保することが可能になるというのも移転価格ポリシーを設定することの副次的な効果として挙げられます。

ローカルファイルの内容

 ローカルファイルの内容としては、個々の関連者間取引に関する詳細な情報、取引に関する財務情報や比較可能性分析、最適な移転価格算定方法の選定及び適用に関する情報などが挙げられます。

 具体的には、以下の内容を満たす資料を作成する必要があります。

ローカルファイルの内容一例

  • 対象法人及びグループの概要
  • 国外関連者の概要
  • 国外関連取引の詳細
  • 国外関連取引に係る対象法人と国外関連者の機能及びリスク
  • 対象法人及び国外関連者の事業方針等
  • 市場等に関する分析
  • 独立企業間価格の算定方法等
  • 国外関連者との関連取引に密接に関連する取引について

※ 出典:国税庁「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~ 「Ⅲ 同時文書化対応ガイド ~ローカルファイルの作成サンプル~」

 移転価格調査において、ローカルファイルは国外関連者との取引価格が公正な価格で行われていることを検証する重要な文書です。そのため、事前に国外関連者との取引価格に関する分析と、文書化をはじめとした移転価格調査への準備をしておく必要があります。

 なお、ローカルファイルの記載内容に不足や問題点があれば、税務調査時に指摘を受ける可能性があることから、作成時にはその点十分に留意する必要があります。

ローカルファイルの意義

 国外関連者との取引があるにもかかわらずローカルファイルを作成しなかった場合は、移転価格調査が長期化することが想定され、場合によっては推定課税を受ける可能性が高まります。

 ローカルファイルの作成にはこのようなリスクに備えられるだけでなく、他にもさまざまなメリットがあります。たとえば、ローカルファイルを作成することで、親会社の経営陣はグループの状況を包括的に把握できるようになり、移転価格課税リスクの管理や海外子会社のガバナンス強化などができるようになります。

 なお、ローカルファイルの作成においてはグローバルドキュメンテーションの作成を徹底することが重要です。今や移転価格税制は多くの日本企業が進出する国々で整備されていることから、国内外の各拠点でばらばらにローカルファイルを作成すると、グループ内で整合性が取れないローカルファイルが作成され、いずれかの国で移転価格リスクが生じてしまうようなケースも出てきます。そのようなリスクを回避するため、本社主導でローカルファイルの作成を一元管理し、グループで整合性が取れたものにすることで、課税リスクを低減することができます。

 制度やそれに必要な書類に関して不安や疑問がある場合には、移転価格税制を得意とする会計事務所などの専門家のサポートを得て、不備のない書類の作成や保管をおすすめします。

金融取引

 親子ローン等の金融取引においても、移転価格ポリシーとローカルファイルは重要な役割を果たします。
 たとえば親子ローンの場合、移転価格実務では事業年度前に将来の親子ローンの金利を移転価格事務運営要領に則って算定し、事業年度終了後にローカルファイルで事後検証することが想定されます( 原則として親子ローンは、ローン実行時において移転価格税制に則った金利であることが求められることから、ローカルファイルでは事後検証を行います)。

 さらに、親子ローンの金利算定は、移転価格算定方法として独立価格比準法(CUP法)が適用されることが一般的であり他の方法に比べ比較可能性が厳しく求められます。このため、比較可能性を担保するため移転価格ポリシーの見直しを毎年行い、ベンチマーク分析による金利算定を行うことが肝要です。このような運用を行うことで、ローカルファイルでの事後検証時に金利が独立企業間価格であったと説明できる可能性がより高まります。

まとめ

 本コラムでは、移転価格税制やローカルファイルについて解説してきました。しかし、特に中小企業の担当者や経営陣の中には、まだまだ制度に対して不安を払拭できない方もいるでしょう。

 東京共同グループであるTKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社では、移転価格税制に対応した各種書類の作成や制度に対する疑問等、グローバルで取引する機会の多い企業に必要なアドバイスやサポートをご提供しており、随時無料相談会を実施しております。これからグローバルで経営を進める予定の企業様や、すでに海外展開していて移転価格税制について不安がある企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。

 なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
 本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 渡部 公丞

    東京共同会計事務所 移転価格アドバイザリーグループ
    マネージャー
    TKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社
    取締役

    国内外の金融機関等を中心に、移転価格に係るリスク評価、移転価格文書の作成、税務調査対応からM&A関連の税務デュ-デリジェンスに至るまで様々な業務を担当。
    事業会社のグループファイナンスに関する移転価格コンサルティングにも従事しており、豊富な経験を有する。

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